家宝

o principio da incerteza
2002年 葡・仏
監督:マノエル・ド・オリヴェイラ
出演:レオノール・バルダック
レオノール・シルヴェイラ
リカルド・トレパ


 オリヴェイラの映画、三本目。この監督の映画は観れば観るほど嵌まり込んでいく気がする。決して派手ではない、抑制が効いた作風には職人芸的な安定感があるし、何より構成や構図の巧さには舌を巻く。
 今回の映画は構成の巧さがひときわ際立っている。オリヴェイラお得意の二項対立を複数設定しているのが基本構成なのだけれど、これら対立項のフォーメーションを展開させることで、物語を進めていくのだ。力量のある監督が采配したサッカーの試合や、数式で証明問題を解いていくような美しさがある。しかも物語は物語として十分見ごたえのある内容をもつので、とにかく堪能の一品。室内装飾の重厚な暗さと窓から入るポルトガルの陽光の明るさが、画面を引き締めているし、ポルトガル語の響きがまた美しい。パガニーニの音楽が、場面場面で効果的に使われているのもいい。ワインが飲みたくなること必至である。ブドウ畑も映し出されることだしね。
 さて、ここに出てくる二項対立を挙げていくと切りがないので(複雑に人間関係が展開していくからいくつでも作れてしまう)、少しだけ取り上げることにする。
 なによりも、主人公カミーラ(レオノール・バルダック)と女中セルサ(イザベル・ルト)の対比が興味深い。カミーラの守護神がジャンヌ・ダルクで、セルサの守護神が聖母マリアというのもそれぞれの役柄を象徴していておもしろい。セルサの行動とその胸の奥にしまいこんだ秘密は「母」がキィワードになるものだった。カミーラはもっと複雑で、作中でジャンヌ・ダルクが「二面性をもつ女」と捉えられているように、彼女自身も複雑な二面性をもつ存在として描かれている。可憐な容貌をもつカミーラは、周囲の人間からは不幸な結婚に耐えるかわいそうな女性という評価がなされているが、彼女自身は必ずしも自分をそうとはみなしていない(「わたしは汚い人間だ」と述べるように)。実際映画を観る者には、彼女が冷静な分析力と決断力と備え、ときには冷酷でさえある一面をもつ女性であることも知らされる。カミーラとセルサは根本的に対立する関係にありながら、自らの欲望を貫徹する意志の強さと頭のよさをもち、さらには秘密を抱え込んだ者として、似た者同士でもある。犯罪を犯しても、絶対に人に洩らさず、良心の呵責にすら耐え切れる存在だろう(セルサがそうだったように)。
 ともあれ、カミーラの謎めいた性格はかなり魅力的だった。あと、狂言回しとして出てくるロペール兄弟もいい。この兄弟も運命共同体のような不可思議な存在だ。ダニエル役のルイーシュ・ミゲラ・シントラは『神曲』で「預言者」役をしていた役者さんだが、今回もすごくいい味を出している。一度みたら忘れられない人だ。
(31.jul.2005)


ka