『自殺自由法』

 戸梶圭太『自殺自由法』を読む。
 自殺自由法が日本に施行されてから、自殺(自逝)が個人の自由となる。行政が積極的に後押し、苦痛なしに死ねる施設をつくり、自殺したい人々を積極的に施設へと誘導する、という内容。以下、簡単な感想。
 タイトルにもなっている自殺自由法というコンセプトがまず秀逸。ナチスのユダヤ人絶滅収容所やニュルンベルク法、安楽死問題などを思い出させるし、思考実験としてはとてもおもしろいネタだな、と思った。
 でも内容に関しては、この法律に振り回される人間や社会のほんの一部しか描いていない。自殺したくもなるような環境や境遇にある人々や、それによってうまい汁を吸おうとする人間のギラギラした部分は書かれている。でもそこで終わってしまっている。ある意味、最後まで変化がなくてワンパターンだったので、最後のほうは飽きてしまった。風刺もさほど毒が効いているとも思えなかったし。
 なんというか、コンセプトはいいのに、外堀しか埋めていないかんじ。もっと内堀を埋めた内容を想像していたので、物足りなく思った。たとえば、この法案が成立するまでの過程――自殺の権利をめぐっての刑法学者や法医学者や哲学者の議論とか、反対する学者がナチ時代のように亡命を余儀なくされたのか、あるいは粛清されたのか、法案成立をめぐっての政治家の動向やこのときの政権がどんな政体だったのか等々、もっと思考実験の程度を上げられるネタだったんじゃないかな、と思った。毒が効ていくるのはそれからかな。