ヘッセ『メルヒェン』

 最近お気に入りの喫茶店をみつけたような気がする。前からしっていたお店だけど、休日はいつも混んでいたから入ってみようとは思わなかった。でも平日の夕方は、お茶の単品の値段が安くないせいか、空いている。禁煙席があるのもうれしいし、紅茶がポットサービスでくるのもうれしい。入り口付近の四人がけの広いテーブルに座って、本を読んでから帰る。
 隣の人が近かったり、音楽がうるさかったりすると、本が読めない。わたしはきっと集中力が足りないんだと思う。
 ヘッセの『メルヒェン』を読んだ。タイトルから想像するのとぜんぜん違ったけれど、とても美しい文章が連なっていて、なんだか泣けてくる。「ファルドゥム」の、世にも美しい願い事をした少女たち、空に消えたヴァイオリン弾きと山になったその友人、「アヤメ」の、失われた故郷を探す男の郷愁。切なさと儚さとが文字になって滲んでくるようだった。