マリー・アントワネット

Marie-Antoinette
2006年、米
監督:ソフィア・コッポラ
出演:キルスティン・ダンスト
ジェイソン・シュワルツマン
リップ・トーン


 一言でいうと、思ったより毒がなかった、という感想になる。アントワネット視点で撮ることで一貫して、最後、彼女が誰もいなくなったヴェルサイユを眺めるというのはまあいいとして、え?ここで終わるの?という感は否めない。
 彼女が本質的には普通のお嬢様で、政治のイロハも分からずに大国フランスの王妃になった人物だと、『ベルばら』でもツヴァイクの『マリー・アントワネット』でもそんな風に描いていたと思う。だからコッポラが彼女のコケティッシュな魅力を前面に出す形で描いたのも、歴史的解釈としてはさほど無理はないと思う。
 ただ、いわば普通の女の子である彼女が、王朝外交のど真ん中に放り込まれ、栄華を一身に表現することを求められ、最期はギロチンで処刑される人生を送るという、天国から地獄へのその急降下ぶりが凄まじいのであって、ヴェルサイユを出てから以後の描写がひとつもなかったのが残念だった。そこを描かないアントワネットなんて、天真爛漫なのはいいけど、ヘタすりゃ空気読めないイタい人で終わってしまうって。せっかく前半生をパンクロックがかかるなかでファッショナブルかつガーリー・テイスト満載で気合を入れて撮っているのに、あれを晩年の彼女を描写するさいに、対比させるか追想させるかしてなんで使わないかったんだろう、もったいないな〜と思った。前半は挑発的に飛ばしているのに、後半しぼみすぎ・毒なさすぎ。
 それでも、しきたりとマナーに満ちた宮廷生活を描いたところなどは、とてもおもしろかった。王朝外交が後継ぎを産むことにどれだけ重点を置くものであるかもよく分かる(そういう意味では、王政というのはほんとに不安定な政治体制だわ)。映画の売りになっているファッションやスウィーツの目も眩むような鮮やかな色彩はまさに王朝絵巻というかんじ。赤・薄桃・青・黄・白・紫と場面を変えるごとにくるくる変わるドレスは見ているだけでうっとりする。フリルや花のついた帽子、風に揺れてゆっくり膨らむ絹のドレス、背中のほうにふんわりと垂れる首に巻いたスカーフ、口元を覆う扇子、高く結い上げた髪にさしこまれた羽、フリルとリボンをふんだんに使った靴――。
 映画をみて記憶に残るのも前半の豪奢な生活ぶりだったりするので、もういっそのこと、ここに集中してもっとラディカルな映画をつくってもよかったんでは? ルソー読ませて「自然回帰」しているようなトンチンカンなアントワネットなんか描かずに、「パンがないならケーキを食べればいいのに、ってンなことアタシが言うわけないじゃない(笑)」を地でいくようなキャラで通してほしかったかも。けっこう史実に忠実に撮ろうとしている分、なんかマジメで中途半端なんだよね・・・。ポスト・パンク、ニューロマ系の音楽選定が、キャラ設定とストーリーに合ってない・・・。ヴェルサイユ宮殿を借りて撮影したというのも、本物感を出すのには有益だけど、逆に歴史の重みとかフランス政府の圧力に負けて、いまいちハジけられなかった原因になっているのかもね。
(2007.feb.01)


ma