エマ

emma
1996年 英
監督:ダグラス・マクグラス
出演:グウィネス・パルトロウ
トニ・コレット
アラン・カミング
ユアン・マクレガー
ジェレミー・ノーザム


 19世紀ロンドン郊外ハイベリーの美しい自然を舞台にした作品。何より、そこを歩くたおやかな女性たちが美しい。胸元から裾までまっすぐ伸びるドレープの美しいドレス、高く結い上げた髪、ほっそりとした首筋、無駄な装飾のないデコルテのラインなど、とても可憐である。こうした女性たちが、美しい調度品をそろえた室内に佇んだり、緑豊かな森の小道を散歩したり、畑でイチゴ摘みをしたりと、それはそれはロマンティックな風情が漂っている。おまけに話もうまい(さすがにJ・オースティンの原作がよいのだろう)。たいした事件がおきるわけでもないのに、人間心理の微妙なゆらぎがとてもうまく描かれていて、見飽きなかった。サロン的というのにふさわしい、品よくまとまった佳品というかんじだ。
 二十歳そこそこのエマは、身分が高く、容貌も整い、歌や絵画の腕もすばらしく、おまけに頭のキレも抜群で、結婚相手としては申し分のないお嬢さま。でも自分の結婚はそっちのけで、周囲の人物の縁組をするのが趣味という女の子。周りの人間を自分の思い通りに動かすべく策略練るのが三度の飯より好き!だなんて、けっこうタチの悪い趣味ではないかと思うし、エマみたいなタイプは正直苦手だけれども、まあそういうことは横においといて(グウィネスはハマり役ですね)。
 おもしろかったのは、19世紀の上流社会における「結婚」のもつ意味がよく出ていたこと。何より結婚は、当時の女性にとってはその後の人生を決める最重要事だった。このレールに乗れなかった人に対しては、周囲から品のよい哀れみの眼差しが注がれるという、かなりシビアな現実も描かれていたりする。
 さらに結婚とは、階級のバランスと人間性の双方を秤にかけて為される社会的行為に他ならないということもよく分かる。エマが友人のハリエットとエルトンのキューピッド役を勝手にやりはじめて、友人であるナイトリーに諫められるのも、階級や相性のバランスを欠いた縁組を勧めているという理由にあったりするからだ。
 全体的にお説教臭いといえばお説教臭いのだけれど、これは一種、女性向けのビルディング・ロマンだったのかなと思う。理想の結婚とは何か、賢い女性とはどのような人かというテーマを、エマという一人の女性を通して描いているともいえる。このテーマは、最後、エマとナイトリーの結婚で表現されている。
 彼女とナイトリーは「友人」同士として、耳に痛いことも時には相手に遠慮なく言う、そういう対等な関係にある。階級がつりあっているのは当然として、嫉妬や恋心も理性によって慎み深く抑え、最後はお互いの恋心を認め合っての結婚にいたる。階級のつりあいのみを重視した結婚でもなく、恋愛の情熱にかられただけの結婚でもなく、「分別」と「コモン・センス」を備えた人間同士の結婚が理想的な結婚なのだという、イギリス的な価値観を反映したものとなっている。そこに慎ましやかなロマンティック・ラブ・イデオロギーと女性の相対的な地位の上昇もこめられていて、「19世紀」「イギリス」の「女性」の価値観とはこのようなものだったのかと思わせられる作品だった。
(20.feb.2007)


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