柘榴

 10月ももう明日でおわり。そろそろ視覚でも秋を感じるようになってきた。
 金木犀が満開で、あたり一面にあのむせかえるような匂いがただよっている。公園の藤棚の葉っぱは、風が吹くたびに盛大に落ちて、おもしろいように転がっていく。これから一ヶ月くらいかけて、銀杏の葉はきれいな黄色にかわっていくし、桜や他の木々も赤く色づいていく。お向かいの南天はすっかり赤い実をつけるようになった。
 それに、なんだか肌寒い。じっとしていると、足のほうから底冷えしてきそう。奥からひざかけを引っ張り出してくる。あったかい。そういえば、お布団もあったまると、ぬくぬくして気持ちがよくて、出るのがいやになるようになってきた。もっと寒くなるとほんとにでたくなくなるから、今くらいがちょうどいいんだな、きっと。
 スーパーにいくと、花梨と柘榴がこんもり盛られて売られてあった。果実酒にしてくださいということらしい。なるほどなるほど。果実酒にするんだ。柘榴って、どうも食べ方がよくわからない。あれは、実をちまちまと一粒ずつ食べていくのかしらん。
 柘榴はずっと、空想の食べ物だった。龍とか麒麟みたいなかんじで。小さい頃は見たことも食べたこともなかったし、鬼子母神伝説で柘榴をはじめて知ったから、人間の肉と血の味がする果物だと覚えこんだ。それって、食べてみたいような食べるのがこわいような、そういう謎にみちた果物だった。今でも、あのごつごつっとした赤黒い外観をみると、少し不気味に感じてしまう。不気味、といっても、そこにはエキゾチシズムと神聖さみたいなものもまじっている。
 実際に食べたことはあるんだけど、味のほうは覚えていない。これが人間の肉の味なのかなと思いつつ食べたんだけど、そういうことを考えていたせいか、現実の味のほうはさっぱり記憶に残っていない。だからいまだに空想のほうがまさっている。