ビル・ヴィオラ展

 東京に行く機会があり、隙間時間に森美術館でやっていた「ビル・ヴィオラ:はつゆめ」を見てきた。とくにルネッサンスなどの古典絵画を引用しながら、超スローモーションで絵画のような動画をつくっている作品群がすばらしい。
 古典絵画を動画にするという手法自体は、映画の『バロン』などにもボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」をそのまま実写化しているシーンが出てくるから、まったく新しいものではないと思う。でも、喜びの表情や嘆きの表情、苦悶に満ちた表情など、喜怒哀楽が微細に変化していく様子をじっと眺めていると、とても普遍的で複雑で深みのある何かに触れたような気持ちになってくる。「ラフト/漂流」という作品も見たが、突然襲ってくる災害=苦難に翻弄され、耐えぬき、助けあう人々の姿をスローモーションで見続けていると、これもまた不思議なくらい崇高な感情を覚えるのだ。時間を少し操作するだけで、「知っている」けれども普段は「気づかない」、そうした心の機微に触れるような作品群だったと思う。
 あと、中世の修道院の一日を思い出させるような作品も、昔話などの物語の世界に入り込んだ気分になっておもしろかった。決して開けてはならないという箪笥の引き出しを順々にあけていくと、水田があり、稲穂が実り、収穫をしているミニチュアの世界が広がっているという昔話を思い出したりした。