2003年、日
監督:犬童一心
出演:妻夫木聡
池脇千鶴
上野樹里
この映画、すごくよかった。あんまりよかったので、田辺聖子の原作を買って読んだ。原作もよかった。映画はこの田辺原作の雰囲気をこわさずにうまく作られているなあと感心した。
足の動かないジョゼは、古ぼけた長屋の片隅に年老いた「おばあ」と二人で住んでいる。映画のなかの、ジョゼの部屋がかわいらしい。気に入った写真を襖にはり、白いカーテンを窓にかざり、白い小さな鏡台に櫛やアクセサリーを飾り、赤い水玉模様のポットからお茶を飲む。「おばあ」がゴミ捨て場から拾ってくる本を山積みにし、押入れのなかに灯りをもちこんで、そこでジョゼはかたっぱしから本を読む。世間体を気にして、ジョゼを「壊れもん」として扱うおばあは、早朝の人気の少ない時刻に、ジョゼを古ぼけた乳母車にのせて「散歩」につれだす――「花」とか「猫」とかを見ないといけないから。海底にひっそりと住まう人魚姫のようなジョゼの世界はそれだけだった。
ある日の散歩途中のトラブルがきっかけで、大学生の「恒夫」がジョゼたちの家にくるようになる。ジョゼはヘンな女の子で、大阪弁で小憎たらしい高飛車な物言いをする。恒夫は大学にいる周囲の女の子とはぜんぜん違うジョゼに最初は面食らうけれど、高飛車な物言いのなかにある繊細さやかわいらしさを感じとって、だんだん彼女に魅かれていく。それにジョゼの作る料理は、とてもおいしそう。恒夫はジョゼの作るごはんを食べにくる。それがぬかづけだったり、たまご焼きだったり、筑前煮だったり、とてもシンプルな料理。「また食べにきたで」「どあつかましい男や」といいながら、ジョゼは恒夫に料理を作る。あとで、ジョゼに恒夫をとられた元・彼女が「あんたの武器がうらやましいわ」とジョゼの足のことをあてこするけれど(ジョゼもきっちり言い返す)、「女の武器」という点では、「憐み」よりも「胃袋」をおさえたところにありそうだ。
おばあが死んで一人ぼっちになったジョゼは、「ここに居って」と泣いて恒夫を引き止める。ジョゼに魅かれていた恒夫は、彼女といっしょに暮らしだす。好きな男ができたら、この世でいちばん怖い生き物=虎を見に行こうと思っていたというジョゼは、とてもいじらしい。はじめての旅行で場末のホテルに泊まる二人――海の生き物がホログラムで浮かび上がり、部屋中を回遊する映像をみながら、ジョゼは、自分が深い海底に戻ることは二度となく、恒夫が去った後には、乾いた貝殻になってカラカラ転がるだけの人生になることを予感している。でも、それもまたええわ、とひとりごちながら。
最後、ジョゼと別れた恒夫は泣き崩れ、ジョゼは淡々と日常を生きる。一人であっても自分のために丁寧に食事を作る彼女の姿は、とてもよい。思うに、人のためにごはんを作るのもいいけれど、自分のことを思ってごはんを作ることは、心がすさんでも萎縮してもいないからこそ、できることなんだろう。だから、ジョゼの暗い予感をこめた独白にもかかわらず、彼女の未来は豊かな色彩を帯びたものになるのではないかと、祈りをこめて期待したくなるのだ。
映画館でみたかったな、とちょっと残念に思っていたりする。
(13.nov.2007)
si