この魅惑的なタイトルは、イタロ・カルヴィーノ『魔法の庭』(晶文社、1991年)に入っている短編につけられている名前である。原題はFurto in una pasticceria。盗みに入った三人組みはどうもケーキ屋に入ったらしく、本来の目的を忘れてひたすらお菓子を食い散らかしてしまうというお話。
戦後まもなくの話で、お菓子なんか何年振りだろうという感激と、盗みに入った短時間しかこの「夢の楽園」にはいられないという焦燥感から、泥棒《ボウヤ》は突如、菓子との闘いに突入する。
クリームと砂糖づけのサクランボ、ジャム入りドーナツ、メレンゲ菓子、アーモンド菓子、「燃えるろうそくからロウがたれてるみたいな」クリームケーキ、パネットーネの兵隊に、ヌガーでかためた堅固なお城、もう味なんかわからないタルトに気味の悪いチャンベッラ、スコッチケーキにブリオッシュ、一本丸ごとぱくつくプラムケーキ、サヴィオア・ビスケットにチョコレート・ビスケット、四つんばいになってケーキの上に乗っかるわ、もうたくさんなのに狂ったようにシュトルーデルやクレープを貪りつづけ、松の実入りのマカロン、カンノーロ、砂糖づけの果物とまだまだ続く、挙句の果てにやってきた警察までもがお菓子に夢中になる始末。てんやわんやの大騒動は「猿がやった」という警官たちの「証明」でおひらき。
とまあ、とにかくマシンガンのようにお菓子が飛び出してきてとってもスラップスティックなお話なのです。オチまでスゥイートよ。
(Sunday, November 19, 2000)